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2010年11月 アーカイブ

ある男のつぶやき 1

どこにでもいるような男性のつぶやきを紹介します。

上を見ればきりがない。

下を見てもきりがない。

ひと仕事終わった男は、朝見た親子のことを思い出している。

実は去年の転勤シーズンに部下を地方に転勤させた。

その男には重い障害を持つ長男がいた。

本人は考課表に、「家庭の事情があり転勤したくない」と自己申告していた。

しかし、彼の部で、一〇年近く転勤していないのはもう彼だけで、"このあたりで彼にも泣いてもらわねば"というのが、人事部も含めた内部の意見だった。

男が内々に転勤の意向を伝えたとき、その部下は青ざめ、唇が震えていた。

しかし、彼は「精一杯頑張ってみます」と答えて席を立った。

足元がよろけるように、部屋を出て行ったその部下の背中を、仕事の途中ふと思い出したからだ。

その後、彼は家族を全部連れて、宮崎へ行った。

受験期のもうひとりの息子がいたはずだったが、彼だけの単身赴任はしなかった。

障害を持つ子を妻だけに残すわけにはゆかない。

知らない土地で医者を探し、どのようにして、彼は妻と子を支えているのか、社会の好奇の目に耐えていったのか。

宮崎では、おいそれと、実家や縁者からの助っ人に来てもらうわけにはゆくまい。

辛い思いをさせた。

ある男のつぶやき 2

結婚し、子を持とう、というとき、五体満足な自分よりは優れた子を授けてください、と祈るのは当然であろう。

しかし、生まれてくる子がすべて五体満足で親の期待通り育つとは限らない。

なぜか、なにのいたずらか、だれかが突然、障害児の親となる。

親の驚き、哀しみ、そして、成長するにつれて、悩み苦しむ子の無念さをだれが代われようか。

社内で何気なくする単純な子供の自慢話で、深く傷ついている人もいるかもしれないのが、人の世なのだ。

「上を見ればきりがない。

下を見てもきりがない」。

よく子供の頃親が言っていた。

それは将来を夢見る若いときには、何か諦めか、呪いの言葉のように、暗い人生の行く手を象徴するようで、親が吐く言葉の中で一番嫌いな言葉でもあった。

ここには、他人の不幸と比較して、自分を慰める、という底意地が悪い自己満足があるのは事実である。

しかし、人は生まれ置かれた状況に満足して生きない限り、平穏な生活ができないこともあるというのも、長い風雪を経た人の世の知恵であろう、と今では思う。

転勤して半年ほどして、宮崎に転勤した部下が社内研修のために上京してきた。

挨拶に部屋に顔を出した彼に男は尋ねた。


上ばかりみても、下ばかりみても、どちらもやはり苦しいですね。本当に。

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