ある男のつぶやき 1
どこにでもいるような男性のつぶやきを紹介します。
上を見ればきりがない。
下を見てもきりがない。
ひと仕事終わった男は、朝見た親子のことを思い出している。
実は去年の転勤シーズンに部下を地方に転勤させた。
その男には重い障害を持つ長男がいた。
本人は考課表に、「家庭の事情があり転勤したくない」と自己申告していた。
しかし、彼の部で、一〇年近く転勤していないのはもう彼だけで、"このあたりで彼にも泣いてもらわねば"というのが、人事部も含めた内部の意見だった。
男が内々に転勤の意向を伝えたとき、その部下は青ざめ、唇が震えていた。
しかし、彼は「精一杯頑張ってみます」と答えて席を立った。
足元がよろけるように、部屋を出て行ったその部下の背中を、仕事の途中ふと思い出したからだ。
その後、彼は家族を全部連れて、宮崎へ行った。
受験期のもうひとりの息子がいたはずだったが、彼だけの単身赴任はしなかった。
障害を持つ子を妻だけに残すわけにはゆかない。
知らない土地で医者を探し、どのようにして、彼は妻と子を支えているのか、社会の好奇の目に耐えていったのか。
宮崎では、おいそれと、実家や縁者からの助っ人に来てもらうわけにはゆくまい。
辛い思いをさせた。